「中原中也論」ほか

 一昨日に続いて大岡信『詩人の設計図』書肆ユリイカ1958年を読み進める。「中原中也論」。すごく鋭く深く、今も新鮮な論述だ。

《 中也のうちに、おのれ自身に甘えた詩人を見るなら人はあやまるだろう。しかしまた、おのれ自身を超越すようとした詩人を見るなら、人はさらに あやまるだろう。彼はたしかに誠実だった。何に対して? おそらく、、彼の宿命に対して、だ。 》

《 つまり、彼は「名辞以前の世界」の重要性を指摘しながら、その世界へ立ち入り、あるいは豊かにすべき方法は明らかにしていない。彼の批評精神は 直観的に働いたが、分析的にも総合的にもひろがるべき道を持たなかった。彼の思考には延長がない。常に断定的であり、最後的である。断定的であり、 最後的である限りにおいて、その精神は皮相な日本文化のあり方に対し極めて明確な批評的立場に立ちえたが、同じ理由からその批評は常に同じ地点にとどまって 発展することができなかった。 》

《 こうしたことは何を意味するか。彼にとって、うたは批評であり、しかも批評はうたによってしか表現できないていの、せっぱつまったものだったということに ほかならぬ。 》

《 したがって、彼のうたは、おのれ自身で完結せざるをえなかった。彼のうたは、完璧でしかありえなかったのだ。 》

 中原中也「古代土器の印象」について。

《 つまり磁場が作り出されるのだ。うたわれている内容はこの時固有の意味を失い、意味を失うことによってポエジーの中に昇華する。 》

《 それは生成状態にある意識そのものの定着をめざしており、しかも定着された以上、成るという形で完結していた。たちまち消滅してしまうと思われるような 生の吐息が、そのゆらめきのまま定着された。 》

 こんな文章を読むと中原中也を読んでみたくなる。が、本は持っていない。中原中也には殆ど関心がなかった。高校時代に萩原朔太郎に出合って以来ずっと 彼の詩を愛読していた。彼の詩に現れた心性が十代末〜二十代の私に波長がぴったり合った。

 続く「小野十三郎論 歌・批評・リズム」を読む。

《 二十歳前の人間の感受性は、すべて事物に対する反応が組織化されていない。極めて未分化な状態にあるのだ。 》

 萩原朔太郎の詩への親近を思い出す。

《 したがって風景は乾燥しており、詩人自身の生理によって色づけられ、条件づけられていない。 》

 これまた萩原朔太郎の反転だ。すななわち。風景は湿っており、詩人自身の生理によって条件づけられいる。

《 時代のムードというものは、個人の経験の範囲内ではむしろ先験的なものであり、物や観念のように拒絶できるものではない。短歌はそうしたものの上に 成立していると僕には思える。(中略)現実を承認する心情によって書かれた場合には極度に安定感をもっている五七五七七の調べは、反対の心情を盛ると 甚だものがなしい響きをたてる。 》

 塚本邦雄の短歌を連想。これは一九五四年一ニ月の執筆。

《 [付記]最近、全集『現代文学の発見』(学芸書林)第十三巻「言語空間の探検」に「現代詩の成立」という文章を書いたさい、小野詩論の意味について 若干の新しい考え方をしるした。参照していただければ幸いである。 (一九六九・一) 》

 本棚から『現代文学の発見』第十三巻「言語空間の探検」1969年2月10日初版を取り出す。新刊で購入したこの本で加藤郁乎、高柳重信塚本邦雄ら俳句短歌の 異能を知った。解説を含め何度読み返したか。大岡信の解説「「現代詩」の成立──「言語空間」論──」は、きょう改めて読むと、今まで何を読んでいたのか、 と愕然とした。

《 「言語空間」という言葉がありうるなら、「言語時間」という言葉もなければならないだろう。それが、少なくとも今のところそうならないのは、広い意味での 空間的なもの、つまり、実際に触知することができ、視覚的に延長をたしかめることができる世界に対する、現代人の強い関心にもとずいていると思われる。 時間的持続よりは空間的延長を、より現実的(リアル)であるとする現代人の心理的特性が、言語空間という言葉の発生にまで関係していると思われるのだ。 何といっても、視覚や触覚は、聴覚、嗅覚といった、時間的要素をより多く含む感覚器官よりも、今は重んじられていると見なければならない。明確に計測しうる ものへの好みというのは、現代人の一般的特性である。 》

 続く言語と詩の関わり、詩論は、今でも全く色あせていない。というよりも一層アクチュアル、切実な課題と思われる。

 朝、源兵衛川際の床屋へ。主人の言うには反対側の石垣の底の隙間からズガニが出てきた、と。何十年ぶりだろう。床屋の石垣の隙間から鰻が顔を出しているのは、 子どもの頃見ている。

 ネット、いろいろ。

《 【緊急告知】新本格30周年。「消失!」していたかと思われた、伝説の「あの」作家の最新作。異色の発売決定。 》 講談社 文芸第三出版部
 https://twitter.com/kodansha_novels/status/902448275206406144

 中西智明『消失!』講談社文庫1993年初版。二十二歳のときに書き下ろした長編ミステリ。

《 区内にある米軍基地等の返還要請行動 》 東京都港区役所
 http://www.city.minato.tokyo.jp/jinken/kurashi/hewa/torikumi/begunkichi.html?utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook

《 彼は西洋近代科学の本質を事物の因果関係の追求のうちに見出している。しかし因果関係は世界の一面を表しているにすぎない。仏教思想が示すように 世界の実相は因果を超えた縁起の中にある。縁起はこの世界に生起する全ての事物が互いに縁起によって関係し合っているという認識に立つ。 この縁起的世界観に立つとき、科学の構造もより複雑なものに拡張されていかなければならない。 》 中沢新一南方熊楠─日本人の可能性の極限」nippon.com
 http://www.nippon.com/ja/column/g00415/#.WaUbm57ovTR.twitter

《 組織改革をしていくなかで、多くの経営者は「機能しないパーツは切り捨てる」と言うのだが、言うまでもなく社員は「パーツ」ではない。 社員が誰も疎外されず、十分なパフォーマンスが発揮できる環境をつくる。組織改革とはそういうことである。先ず経営者を再教育する、 このフェーズがとても疲れる。 》 M
 https://twitter.com/freakscafe/status/902407319526326272

《 神話的世界へ、僕の方法、そして、僕と異なる方法 》 上妻世海
 http://inunosenakaza.com/sekaikouzuma.html

《 カツオドリ見て元気出して 》 ぱく
 https://twitter.com/_hitonokuzu/status/902160226723348480