泣いた

 昨日話題にしたつりたくにこ さんのマンガを読む。一番印象的なのは「彼等」。「ガロ」臨時増刊「つりたくにこ特集」で発表されたもの。この曲がった道路、この大学正門、この喫茶店・・・・西池袋に違いないと思った。後日つりたくにこさんのご主人からそうだ、という返事。今読んでも懐かしいではなく新鮮。どのマンガにもあるナンセンスな笑い、その裏にぴったり張り付いているペシミズム、諦観。男なのか女なのか不明のアンドロギュヌスな登場人物。発表から四十年近く経た2007年に読むと、その特異さがまざまざと浮かび上がる。唯一無二のマンガ家だった。
 「ガロ」で闘病中と知り、京都の深草まで日帰りでお見舞いに行った。お手製のトンカツをご馳走になってしまった。それから手紙の遣り取りをした。彼女は葉書に弱弱しい字で、でもしっかりと寄越した。ある年の晩春から葉書が途絶えたけれど、手紙を出し続けた。あくる年の瀬、初雪がチラチラ舞う晩、前触れもなくご主人が来訪。軽自動車にちょこんといる子猫を見て理解した、つりたくにこさんは亡くなった。夜空が落ちてくるようだった。
 彼女は去年の六月に亡くなりました。手紙をみるとお知らせできなくて。手紙はくにこの霊前にいつも捧げていました。このたび京都から池袋の実家へ帰ることに。そんな言葉が耳をかすめていった。私は亡くなった彼女に一年半手紙を送り続けていた。

 三十歳の知人女性に佐藤多佳子サマータイム新潮文庫を年の瀬に贈った。彼女の一昨日のブログ。
「入り込むつもりなく、いつもみたいに数ページで寝入る予定だったのに、泣いた。翌日は、かなり目が腫れてた(ノ_・)その小説は『サマータイム』」