閑人亭日録

 「北一明作作品光芒幻想美譚 1」

 その昔北一明から頼まれて書いた北一明作品についての拙文を(恥を忍んで)ネットに公開する。

《   「北一明作『白灰釉水墨風斜傾彫刻文乳頭碗』幻視譚」

  或る盛夏の午後、烈日を浴びて、森は森閑と静まり、蝉の声も鳥声も絶えていた。人、生けるもの皆深く黙すが如き一刻、一私人は山家の縁側に正座し、 「白灰釉水墨風斜傾彫刻文乳頭碗」両掌に受けた。そして、その気品漂う茶碗の不可思議な乾坤に見入った。
  真夏の直射光を一筋とも通さぬまでに、万緑万葉の稠にして密と繁れる光耀たる深緑。その齢千古を下らぬ樹林犇めく深山は、峻にして嶮なる連山、また連山。 大緑海に孤島の如くも見え隠れする岸壁岩塊、点々と有り。
  若し、一私人其処に佇立し、遙かに見渡せば、砂粒の如き人の栄耀悉く拉致し去る、緑また緑の稜線のみが視界の裡。後に広がるは目眩めく青天。どこまでも青。

  と、一塊の白雲、屹立する絶巓に現れ出づ。時を措かず、白雲俄かに湧き上がる。恰も激しき噴泉の如し。白雲、流水斯くの如しと分水嶺を流れ広がりゆく。 白雲、その趨勢甚だしく、尽十方に広がれリ。暗緑の山嶺を深雪の如く分厚く蔽い、雪崩れるが如くに降り下る。転ずれば、夥しき数の白龍と成り、青き天空へ 駆け昇りゆく。
  白雲、大天に幕を引く。帳は降りぬ。
  一瞬理に光輪、その光を滅し、天空、蒼白に陥る。万緑、その光輪を失う。
  天山は並みて乳白の中。
  一陣の風、彗星の如くに来たり去る。
  瞬後、沛然と驟雨なり。
  岩塊上の一私人の掌にも、白雨は粛然と降り注ぐ。両掌忽ちにして深青の湖を現わす。
  不図気が付けば、小庭は夕立に濡れ烟っていた。掌上の茶碗もまた、淡く烟り立ち、深山幽幻の趣きを見せていた。絶品なるかな。  》
      『北一明創造ニ◯周年記念  生命乃燃焼』1992年3月刊行収録

 冊子巻末、54-55頁の二頁に細かい字体(8ポ)で三篇掲載。「2 北一明作白麗肌磁呉須字書碗『人生夢幻』玉響譚」「3 北一明『耀変』──天極の構造」。 1よりも長い。書き写して転載(恥の上塗り)できるかなあ。気力しだい。

 午後、自転車でブックオフ函南店へ。文庫本を三冊。泡坂妻夫『恋路吟行』集英社文庫1997年初版帯付、柴崎友香寝ても覚めても河出文庫2017年3刷、文藝春秋 ・編『東西ミステリーベスト100』文春文庫2013年初版帯付、計324円。三冊とも読まれた形跡がない。へえ。

 ネット、うろうろ。

《 マンションポエムがついに呪術の領域を語りはじめた……。 》 Mio
  https://twitter.com/divergencem/status/1119008598812532741

《  教習ビデオ「事故を起こしたらただちに運転をやめ、車を安全な場所に移動させましょう」
  私「なるほど押していくんだな」  》 米澤穂信
  https://twitter.com/honobu_yonezawa/status/1118071817577455616

《 こ、これで国際電話かけるの? 》 作品社
  https://twitter.com/sakuhinsha/status/1119366690972651520