谷川渥(たにがわ・あつし)『形象と時間──美的時間論序論』講談社学術文庫1998年初版、後半の「第二部」、「X 瞬間の変容」を読んだ。
《 「馬のエクリチュール」は結局「瞬間」の問題に収斂した。(中略)われわれはここで「瞬間」をめぐる議論において基本的と思われる事柄を確認しながら、 あらためて芸術の時間性の問題へのひとつの接近を試みたいと思う。 》 207頁
《 さて、もうひとつの「カイロス」こそ、われわれの課題にとって重要な重要な時間概念にほかならない。なぜなら、それは「人間の人生もしくは宇宙の進行における 転換点となる短い決定的な瞬間」をあらわすものだからである。 》 210頁
《 「特権的瞬間」という名のカイロス的時間の回帰! しかし、いまや「瞬間」は、造形芸術を非時間化するためにではなく、逆にそれを時間化するために導入される のだ。われわれはここに「瞬間」の秘かな変容をとりおさえることができるだろう。 》 222頁
《 ここで問題なのは、カイロス的「瞬間」概念がまったく逆方向の言説を成立させえたということ、そしていつしか美学的言説の比重は対象の側から主体の側へ、 模倣論から体験論へ移行していたということなのである。 》 223頁
《 しかし、「観照の時間」と「作品に固有の内在的時間」とが「相互作用」によって調和一致するというのは、具体的にどういうことだろうか。 》 223頁
《 こうした「特権的一瞬」から、われわれはそれにいたる過去とそこから生じる未来とにわれわれの心を運動させる、いや、というよりむしろ、そうした過去と未来とを 想像作用のうちで融合させることによって、この一瞬を特権化するのである。そしてそうした特権化は、「観照の時間」と「作品の時間」との合致によって可能になると いうわけである。だから、逆に、両者が合致しえない場合、たとえば後脚で立つ馬の彫刻ないし絵画は、見る者に苦痛を感じさせることになる。観照の時間のほうは 描写対象の動きを止めることで引き延ばされているのに、作品の時間はほんの一瞬だけ空中に停止せしめられている当の対象がすぐにでも地面へ落ちることを要求している からである。 》 226頁
《 スーリオにおいては、造形芸術に「観照の時間」と「作品の時間」という二種の時間を原理的に区別しながら、しかも「特権的瞬間」をいわば結節点とする両者の 融合一致を強調することで、作品の時間性を積極的に救いあげることになった。そしてそれは、事実上、議論の力点を「客観」の側から「主観」の側へ秘かに移行させる ことによって可能になったのである。だとすれば、今度は論理的な順序として、芸術の時間性を論ずるにあたってひたすら「主観的」な体験の構造を俎上にのせる立場が 登場するはずである。 》 226-227頁
《 こうして芸術の時間性の問題は、完全に「主観」の側に、もっと正確にいえば「美的体験」の側に還元されるわけである。(中略)つまり、現在の印象とすでに 過ぎ去ったものの記憶とこれから起きるであろうことへの予期との、換言すれば「現在把持」と「過去把持」と「未来把持」との総合作用によって、はじめて時間性の 意識が構成されるという理論を、美的体験のレヴェルにも適用するのである。 》 229頁
《 美しいものが経過とともに美しくなってゆくというのではない。なにかを美しいと感じる体験それ自体が瞬間的であるというのである。とはいえ、その瞬間は 「永遠の瞬間」でもある。時において時を超えるこの逆説の成立こそ、ベッカーによれば、美的なるものの時間性を説明するものなのである。 》 238頁
実に昂揚させる論述だ。「X 瞬間の変容」は、昨日の「VIII 像の差異──影像・写真・絵画」とともに記憶に刻まれる。なぜかと言えば、長年考えてきたことがこの 二つの章で解決の糸口あるいは解決の一例を見いだせたから。
「XII 物語的時間の危機」「結び 時間都市」を読んだ。読了。「XII 物語的時間の危機」は、マルセル・デュシャンの作品への論及に感服。引用は、やめておく。 いずれ再読したときに引用するだろうから。再読を促す著作だ。名著と言える、私にとっては。再読したい本が目白押し。おかげで谷川渥の他の二著、『鏡と皮膚』 『美学の逆説』は先送りになりそう。ああ。
ネット、いろいろ。
《 何度も言ってることだが今日も言う。ミステリーというシステムが文学に与えた最大の恩恵は、「近代文学は人間・人間関係をリアルに描かないと本物ではない」 という呪縛を解き、より大きな驚きを発生させるためなら自然な人間描写・社会描写など犠牲にしてよいと唆したことである。 》 高原英理
https://twitter.com/ellitic/status/1201723658458161153
《 安倍首相に「やじ」 腕を捕まれた男性が警察官7人を刑事告訴 》 NHK news web
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191203/k10012200681000.html
《 イチロー凄いわ。現役を引退したタイミングでオリックス社長と三井住友銀行頭取のスペシャルゲストという待遇で首相官邸に招待されたのに、 この4回目の打診を固辞。しかも新聞に掲載される『首相動静』には本名の“鈴木一朗”の表記を依頼。政治利用を完全に拒否るスタイル。 》 きづのぶお
https://twitter.com/jucnag/status/1202014629024559104
《 「バックアップは公文書なのかわからない」
これが今日のヒアリングで一番デカい内閣府の発言。これが許されるのなら何でもかんでもバックアップに放り込んでしまえばいい。俺が独裁者なら絶対そうするわw 》 GEISTE
https://twitter.com/J_geiste/status/1201761721569824768