女性にとって乳房はどうなのだろう。惹かれる作品から。
抱へたる薊に刺されて乳房あり告白するときめてはをらぬ 角宮悦子
ブラウスの中まで明るき初夏の陽にけぶれるごときわが乳房あり 河野裕子
人知りてなお深まりし寂しさにわが鋭角の乳房抱きぬ 道浦母都子
乳ふさをろくでもなしにふふませて桜終はらす雨を見ている 辰巳泰子
愚かしき乳房など持たず眠りおり雪は薄荷の匂ひを立てて 中城ふみ子
失ひしわれの乳房に似し丘あり冬は枯れたる花が飾らむ 中城ふみ子
乳房を書いていて、なぜか卵が浮かんだ。
静脈注射うたれきたればアーケードに卵なまなまと積まれてありき 永田和宏
鶏卵を割りて五月の陽のもとへ死をひとつづつ流し出したり 栗木京子
生卵を扉(と)に打ちつけて雫垂るとびらの奥に人入りにけり 白浦十郎太
太平洋抱卵のごとし渚の少女らは 金子兜太