日本文化論のインチキ

 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で二冊。小谷野敦(こやの・とん)『日本文化論のインチキ』幻冬舎新書2010年初版、天藤真『遠きに目ありて』創元推理文庫2004年15版、計210円。後者は贈呈用、初版では表紙絵は渡辺啓助だったが、これは松尾かおる。前者は、感心した渡辺京二『逝きし世の面影』平凡社ライブラリーを批判しているので興味をもった。さっそく読んでみた。論点がずれている気がする。批判されたほうは、痛くも痒くもない気がする。ちょっと違うなあ、と思ったもう一点。

《 さてしかし、いわゆる私たちが、一般的な「やや古い」恋愛思想として知っているもの、つまり恋愛をして結婚すべきだけれど、結婚まではセックスはしてはならない、という思想は、戦後になって、中産階級にまで広がり、昭和三十年前後から一九八○年代まで支配的だったものだ。(引用者:略)だから、一九三○〜六○年頃までの生まれの人々というのは、日本の歴史の中でも、最も厳しい性道徳を持った人々なのである。》168頁

 一九五○年生まれの私の周囲では、こんな考えに囚われている人はいたかなあ。一九七○年前後、周囲では同棲、セックス、妊娠中絶は当たり前のようにあった。著者は一九六ニ年生まれ。

《 日本では田中克彦の『チョムスキー』(岩波現代文庫)のような、チョムスキーを理解せずに書かれた本が出回っているせいもあり、生成文法派の論文が極めて難解であるせいもあって、十分に理解されていないため、デリダなどが読まれるのである。》23頁

 『チョムスキー』は読んでいるが、ここは保留。やっぱり論点がずれている気がする。

《 だがむろん、ペリー艦隊を目撃したのは、ごく一握りの、浦賀あたりの日本人らでしかなく、直接米国などと交渉したのは、幕府、そして明治政府の高官たちである。》27頁

 先だってEテレの番組で取り上げていたが、それによると、瓦版などで広く知れ渡り、多くの藩の使いが偵察に来ていたという。うーん。しかし、首肯するところは多くある。向田邦子のドラマについて。

《 向田が描く当時の男たちは、必ずしもよき夫ではないが、しょせんは中産階級の、しかも東京に住んでいる、恵まれた階級の家族でしかなく、とうてい当時の日本人全体の平均像とは言えないのである。》48頁

《 私の考えは、天皇制が続いたのは単なる偶然、あるいは地政学的な問題だというものだ。》53頁

《 一時期、単に、過去に日本が朝鮮や台湾を自国領土にしたのがけしからん、とかいう政治的プロパガンダの場と化して、金太郎飴のようにその手の論文が書かれ、戦意高揚のために書かれた文章を、戦争を肯定しているといって非難するとかいったバカげた光景が展開された。》138頁

《 日本文化の根底には神道があるとか、多神教であるとかいう論は、みなたいていは、この天皇万世一系論と結びつき、空中楼閣を打ち立てようとしている。》186頁

 ネットの拾いもの。

《 ちなみに、現代では結婚後に性的不能だとわかった場合、それを理由に離婚が成立する。》

 ドキッ。