日本の伝統色

 昼に雨が止んだので、旧美術館へ自転車で来る。気温が上がらず、寒々した気分。ちょこちょこ片付け。

 昨日買った福田邦夫『すぐわかる日本の伝統色』東京書籍を見て、本棚から小泉喜美子『ミステリー歳時記』晶文社1985年初版を取り出す。月刊雑誌『小説推理』1981年の一年間に連載された小エッセイから「五月 菖蒲(あやめ)」を読む。

《 当日、姉妹が丹精の菖蒲のたぐひは例年にもまして繚乱と池水を彩って、それは見事なものでありました。縹(はなだ)、二藍(ふたあひ)、藍、紺、菫、葵、紫苑(しおに)、桔梗青(きちかう)、紫匂(むらさきにほひ)、藍青(らんじゃう)、薄青(うすあを)、深紫(こきむらさき)、赤紫、白紫、青紫、葡萄(えび)、若紫、藤紫、淡紫(うすむらさき)、裏紫(うちむらさき)、花紫、仲紫(なかむらさき)、朽紫(くちむらさき)、中倍紫(ちゅうばいむらさき)、偽紫(にせむらさき)、減紫(げにむらさき)、浅滅紫(あさけしむらさき)、滅紫(めっし)、さらに白青(しろあを)、白群(びゃくぐん)、淡紅(うすあけ)……とわずかづつ色をたがへてびらびらと咲き乱れるさまは声を呑むばかり、池水のおもてさへ紫が勝って眺められたほどでございます。 》(もとは旧漢字旧かな)

 須永朝彦『滅紫篇』から小泉喜美子さんが引用。多彩な紫の氾濫に感心した。三浦覚三『色の和名抄』創文社1984年初版によると。

《 実のところ色の和名は千数十種に及ぶといわれているが、江戸の末期迄にあった色名、即ち古来から日本で使われてきた色の呼び名はそれ程多くはない。つまり例えば紫に深、浅、濃、薄、淡という接頭語が付けられたものを一つの紫の色名とすれば、一部を除いては思った程多くの色名はない。 》

 この紹介から、小泉さんは須永朝彦との付き合いが始まったのかも知れない。それが事故死の遠因となり、戸板康二に痛恨の追悼文を書かせ、私を呆然自失させた。この『ミステリー歳時記』は晶文社から贈られたもの。

《  本書は著者の遺志により、謹呈させていただきました。  晶文社  》

 ブックオフ長泉店で二冊。平石貴樹『だれもがポオを愛していた』創元推理文庫1997年初版、クレイグ・ライス『新訳版 スイート・ホーム殺人事件』ハヤカワ文庫2009年初版。前者は単行本で読んでいるけど、有栖川有栖の解説を読みたくなって。後者、羽田詩津子「訳者あとがき」から。

《 クレイグ・ライスの訳者でもあり、旧版の『スイート・ホーム殺人事件』で解説を書いている小泉喜美子さんはライスの作品を「大人の、現代の童話」だといっている。そして、ライスの作品が日本でなかなか売れないのは、”子供の”読者が多いからだと鋭く指摘した。深く共感を覚える。そろそろ、日本でも大人の洒脱なミステリを愛する人が増えてほしい。そんな願いをこめて本書を新訳させていただいた。 》

 ネットの見聞。

《 すべての芸術作品は受取り手にある程度の素養を必要とする。その素養を前提としない面白さが通俗の面白さである。(森村誠一『作家の条件』)  》